西川くんの葱。

げっ!葱が入っとるでかんわ。

かつて勤めていた会社の新入りで同じチームの同僚となった西川くん。まぁ同僚つーか、自分のほうが年上で一応チームリーダーなんて肩書きをもらってたんで、立場からすれば西川くんは部下と言ってもいいかも知れない。まぁ一応関係はそんなふうな感じ。どうでもいいことだけど。
で、いつかは覚えていないけど、とにかくそんなある日、午前中の仕事に区切りがついたところで、やみくもに西川くんをランチに誘ってみた。

「西川くん、一緒にお昼行かない?」
「行こみゃあ、行こみゃあ。」

うわーっ西川くん、相当名古屋弁きてんじゃんか。まぁこっちも多少三河弁きとるんでしょうがないけど。

「西川くんは何食べたい?」
「うーん、うどん屋へ行こみゃーせ。」

そんなわけで、一緒に会社から近くのうどん屋へと向かった。 うどん屋に到着して注文したのは当然うどん。それが何うどんだったなんてことはもう30年以上前のことなんで、思い出すすべはないけど、とにかく普通のうどんだったと思う。これもどうでもいいことだけど。

しばらくして、うどんがテーブルに運ばれてきた。 で、アントキの猪木じゃなくて、そん時の西川くん、丼ぶりの中を覗き込みながら、「げっ、葱が入っとるでかんわ!」って、言ってんじゃん。
しかも、そん時の西川くん、丼ぶりから葱をつまみ出し始めてんじゃん。しかも「何で葱が入ってんだよ!」ってブツブツ言ってんじゃん。

…えっ!何だ何だ?うどんって普通に葱入ってんよな。つか、そんなこと注文する前から分かってるよな。何だこいつ。…って思いながらも、一応年上でチームリーダーな立場を噛み締めながら、
「西川くん、葱嫌いなの?」って、
優しく応答したりしてみたり、
「葱抜きでって注文すればよかったね。」って、
年上でチームリーダーらしく優しく助言してみたりしていた。




だから出してるんです、憎っき葱を。

時は過ぎたある日、同じプロジェクトで仕事をしていた関係もあって、この日も西川くんをランチに誘った。

「西川くん、お昼行かない?」
「行こみゃあ、行こみゃあ。」

「今日はどこに行こう?」
「じゃあ、うどん屋に行こみゃあ。」
「また、うどん屋?」

何なんだろ、これ?デジャ・ヴ?輪廻?でもまぁ、うどん屋つっても、うどん以外のメニューもあるだろうし、ネギ抜きで注文すればいいし、たぶんそうするんだろうなとか思いながら、特に何も言い返すことなく、前回とは別のうどん屋へ向かった。

で、西川くん。やっぱりうどんを注文。ところがネギ抜きでってとか言わない。一瞬西川くん、ネギ抜きって言わなくっていーのか?前回の反省はないのかって言おうと思ったけど、考えてみれば、たかがランチ、しかも所詮他人事。逆言っちゃえば、今日も不思議な場面に出会えるかもしれないじゃんって、それはそれで楽しみかもって、黙って見過ごした。

で、はたして、うどんは運ばれてきたわけだけど、幸運なのか不運なのか、この店では 葱はどんぶりとは別の小皿に入れたシステムでの提供だった。
おぉ少し残念だけど、ともあれ、これは幸運なランチタイムが我らにやってきたよね。これなら葱は別になってるから、葱嫌いな西川くんも大丈夫だろって思いながら前回とは違う祝福のランチを迎えたのだ。…と思った。つーか普通そう思う。 ところが、ところが、 西川くん、それ、まぢか? 小皿の中の葱をドンブリに放り込み始めたじゃん。うわっ、こいつ何やってんだ。頭おかしいんじゃないのって思いながらも、年上でチームリーダーな立場があるので冷静なふりをしながら、

「あれ、西川くんは葱が嫌いじゃなかったの?」って聞いてみると、
「そうだがね」って。

「だよね、だよね。」
「葱なんか嫌いだがね、めちゃんこ嫌いだがね。」

「じゃあ、何やってんの?」
「ちゃっと葱を出しとるんだがね、こっすい葱を。」つって、さっき丼ぶりに入れた葱を今度は急いでつまみ出している。

うわーっ。何だこれ。ちょ、ちょ待てよ!とか大声で叫んで、 この矛盾点を白昼のうどん屋で明らかにしてやろうとか思ってみたものの、 周りのお客さんに、「キムタクかよ!」って返されてもこちらが恥ずかしい思いをするだけだと鑑み、年上でチームリーダーらしく冷静を装って問いかけてみた。

「いや、出しとるんだがねじゃなくて、その前にどうして入れたのかって…?」

と、西川くんが言うじゃない。
「敵を、より敵であることと認識するためだぎゃあ。」


「もうちょっと聞いていい?」
「なんですか?」

「たとえば、うどんの中にも、別皿にも葱が無かったらどうすんの?」
「お店の人に葱ちょーだゃあって言うがね。」

「そんで、やっぱりその葱をうどんの中に入れんの?」
「あたりまえだがね。とろくせゃあこといわんで。」

どないやねん、これ。

「それって、逆に葱がこの世から消えたら生きていけないってことじゃない?」
「うーん確かに。そんなんだったら、わやだがね。」

もう何だろね、この思考つか頭ん中。常に文句とか愚痴を言う対象が必要ってことなんだろうか。
葱の存在には怒りがわくけど、葱が無いと生きていけない。
憎しみの対象と、その対象への攻撃が己を満足へと誘う価値となっている。

でもこういうのって、西川くんの葱じゃなくても、
自虐的というか、己を不幸者とか弱者とかにポジショニングすることで、有利に発言権を獲得していく戦い方をかも知れない。

 

 

待遇に限りない優位性を享受したら、
結果を得られなかった時の逃げ道を失うってこと。

仕事でも勉強でもだけど、自分が望むだけの完璧な待遇を与えられたらどうだろう。妄想時であれば、こんな幸せなことはないと考えるだろうけど、実際それが現実化すると、逆に不安に襲われる。
「これ、もしうまくいかなかったり失敗したりしたら、自分の問題でしかないじゃん。誰のせいにも何のせいにもできないじゃん。 」 って。
これ、こんな怖いことはないかも。逃げ場のない状況って、そのまま気持ちの上で詰んだ状況になるから。

言い換えると、西川くんの葱的なわざわざマイナスを背負う生き方っていうのは、逃げ場を用意しておくある種姑息な手法だと思う。
でもまあね。人生は失敗もあるわけだから、気持ちを支えていくためには、そんな逃げ場も必要なのかな。

 

 

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9 thoughts on “西川くんの葱。

  1. こんにちは。
    で、結局西河君は、
    嫌いなネギを克服しようとしたのですか?
    うちの旦那もネギが大嫌いで、ちょっとでも入っていたら
    箸で取り除きます。
    取り除いてもネギの残臭があり文句を言いながら食べますが……….。
    理由が知りたい!

    1. わざわざ文句を言うための対象をもつことで、人生に張りをつけていたんじゃないでしょうか。だから、ネギ嫌いを克服するつもりは無いと思います。ある意味深いですね。

  2. 西川君面白い。
    でも多かれ少なかれ、芸術、デザインを生業とする人って多いですよね。
    変人?おもしろい?個性的な人?
    美大に入ったとき。周囲の個性が凄すぎて、自分の凡人さに落ち込みました。

  3. 葱だけで済んでいるのか、葱みたいな人も抱えているのかで西川くんへの興味は変わります。

  4. なんかわかります〜。カップ麺のきつねうどんの揚げが苦手で出しますが、入ってないといかんのです。

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